サーチライト
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2018年5月のスパコミで発行した、迅遊小説本です。 遊真が近界へ帰ってしまう話です。 R18作品です。ご注意ください。
サーチライト - サンプル -
あたりは暗かった。ほとんどなにも見えない。夜なのだろうかと迅は思った。それにしても真っ暗だな。 しばらくそんな状態だったが、突然、サーチライトのような光が照らしだした。ゆっくり、ぐるぐると大きく旋回している。 照射された中に、かすれた光景が見え始めた。かなたには、ぽつんと建物の遠い灯火。ごつごつした岩棚。 風に舞って土埃がひどい。荒涼とした雰囲気のそこは近界だと決めつけて、まちがいなさそうだ。 サーチライトはまだ照らし続けている。こちらに背を向けて立つ影が浮かび上がった。空閑遊真だった。 遊真が、近界にいる。 これは予知だ。ということは、彼が近界に行くということだ。迅のサイドエフェクトは、これがもうそんなに先の未来ではないことを伝えてきた。この予知が確定していることも。 迅の頭は、それを受け入れるだけで精一杯だ。 遊真は近界にいる。いずれ訪れるはずの未来に。 遠征か? と思った。そうであって欲しいと願った。 あたりには他に人はない。遊真は独りだ。そして彼の服装はボーダーのものではなかった。 風と埃除けなのか、大きな布を頭から被っている。その隙間から顔をのぞかせ、暗闇の向こうに目を凝らす。 迅も、予知を通して彼の姿を凝視する。ふわふわとした白い髪の毛も、無垢を思わせるきらきらした赤い瞳もはっきりと目に焼きつけるように。閉じられている小さな唇が、何度もキスしてきた心を疼かせるほど甘く柔らかなままなのを願った。 これがまだ現実ではなく予知なのが、良いのか悪いのかわからない。もし現実だったら、今すぐに駆け寄って抱きしめていただろう。暗闇から引き離すように。 そんなことはできないのだと頭の片隅で悟っている。 さわれはしない。迅は、ただ、視るだけだ。 遊真は近界に帰ってしまっている。 手は永遠に離れて、彼をもう二度と抱きしめられないのかもしれない。 予知が終わり、気がつくと、真っ暗な中で回っていたサーチライトに似た光が、迅の顔を照らしている。